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本、映画、音楽、、、など。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅

 

以下ねたばれ

 

 

エリとのやりとりに心が惹かれた。というか、エリさんの人柄に惹かれた。

 

誰もが一度は、誰かのために自分の身を削るというような経験をしたことがあると思う。そういう愛情のそそぎ方をしたことがあると思う。でもそうして与えたものがきちんと報われるかどうかという部分はまた別の話になる。エリはもともと愛情の深い人で、人に何かを惜しみなく与えられる、またそうやって沢山傷ついて失敗したなかでも曲がらずに生きてくることができた人なのだと思った。

大学時代のエリは精神的に不安定なところのあるユズを護るために献身的に動き回った。友達って、大人になって働き出すと それなりに、ある程度の距離を置いた状態でないとうまく付き合えないところがあると思う。でも学生のうちはいくらでも時間があるから、友達に差し出すことのできる時間もけっこうたくさんあるんだよね。この二人の状況は通常のそういった友達関係とはまた違った特殊な事情もあったけれど。

でもそういう小さな世界は長くはつづかない。

大人になって距離を置くというのは、相手や自分を尊重するという意味で自然なこと。それぞれの内側に、護りたいものや、相手に晒してはいけない種類のものごとが生まれてくる。逆に言えばそれができないのことには何かしらの問題がある。ユズにはできなかったんだね。

 

ユズが自分に打ち勝つことができなかったのは、たとえそのときの彼女の心の一部につくるやエリが含まれていたとしても、彼女の問題は彼女自身しか解決できない。それでもなお、深い関わりを築いてきたひとりとしての自分を省みないわけにはいかない。

特にエリはユズを心から大切に思っていた。もっとも間近なところで、大事にしてきた。今は家庭を持ち、子供を持ち、穏やかな幸せを大切にしている彼女だけど、そういうのを護っていくこと・つくりあげることはまっすぐで深い愛情がなければできない達成だと思う。そんな血の通った愛情を持つ彼女がユズに対して抱く後悔の感情は、あまりにもどうにもならなくて重みがあった。結局のところ残された人間はそれをどこまでもかかえながら生きていくしかない。

 

エリがつくるに与えるアドバイスも素敵だった。私は沙羅はあまり好きになれなかったんだけど、ほかの男の人とデートするような沙羅の人間性はあまり問題になっていないようだった。沙羅の浮気現場を目撃してしまったつくるに対してエリは、彼女を手に入れるべきだよと強くつたえた。それほど求めたいと思えた気持ちを尊重した。こんなふうに言い切ることができるのは、自律した女性の意見だし、素敵だなあと思った。

 

アカやアオの話もよかったなあ。社会に出て疑問や閉塞感を少しずつ感じながら、それでもなにかを守るためにもがいている。10代のころのベースはいきていて、染まりきってしまったわけじゃない。不器用だけど人間味があっていいなあと思った。

 

でも、エリさんよかったなあ~。